イギリス紀行10

声をかけられたのだ。そう、映画祭の会場で、「ふしさんですか?」と日本語で。それがKさんだった(今気づいたがイニシャルが「K」だ)。日本人のKさんは、この映画祭の女性である。何度もメールでやり取りし、彼女がいたからこそロンドンまではるばる来れたといってもいいかもしれない。普通は海外映画祭の関係者なら英語でやり取りせざる得ないが、日本人のKさんがいてくれたおかげで日本語でやり取りもできた。想像ではイギリスで働くくらいだからキャリウーマン?いや男?会うまで男か女かもよく分かってなかった(男女どちらともとれるお名前だし、やり取りは敬語なので)。どんな方かと思っていたら、現れたのは意外に若い女性だった。ざっくばらんなところもあり、海外らしい?


Kさんと話した後、自分の作品が上映される会場に入った。「Sがいる夏、Kのいた秋」の会場に入ると、残念ながら観客はあまりいなかった。ただ上映間近になって人が少し入ってくる。自分もその中に混じって、スクリーンに映される白黒の作品に見入る。もう何度も見ているのだが、見る場所が違うと不思議と違うように見えてくる。映画というのは不思議なものだ。見る側の気持ちや環境が変わると印象も変化する。その場所の文化的なものも影響するのだろう。イギリスで見たので、イギリス側(人)の視点で作品を見てしまう。


白黒だし、内容も明るいものではない。アメリカのロスでこの作品を見たときは、西海岸の明るさが助けてくれ、鑑賞後に「悪くなかった」って思ったものだ。しかし、ロンドンでは逆の気持ちになった。「ちょっと暗すぎたかな」って思ったのだ。途中で席をたつ人もいたり、初めて海外客の洗礼も受けた。ただ、日本人が席を立つのとは度合いが異なる。向こうでは、他の会場の上映を見たりするために気軽に席を立ったりするのだから。例えば向こうでは気軽に街中でもキスしたりするのと同様だ。もちろんそれでもショックだったが。

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